第1回 ダイバーシティとソーシャル・ビジネス

tamura第1回 ダイバーシティとソーシャル・ビジネス
一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事 田村太郎

阪神・淡路大震災で外国人被災者支援や復興まちづくりに非営利・民間の立場から携わる。多文化共生センター代表や自治体国際化協会参事等を経て、07年1月にダイバーシティ研究所を設立。代表として、CSRや自治体施策を通したダイバーシティ推進やソーシャル・ビジネスによる課題解決、東日本大震災や熊本地震の被災地支援に取り組む。明治大学大学院兼任講師。

 

 

 

人口変動というGlobal Issueにはコミュニティのダイバーシティで対応する

今、私たちの社会は、2つのGlobal Issueによって、将来への持続可能性を脅かされています。一つは、地球温暖化にともなう環境変化や自然災害の巨大化に見られる「気候変動」。もう一つは、欧州や東アジアの人口減少とアフリカやインド周辺の人口急増といった「人口変動」です。

この2つのGlobal Issueを乗り越え、持続可能な社会の形成には、気候変動に対応する「環境配慮型社会」と、人口変動に対応する「人的多様性配慮型社会」)(=ダイバーシティ※1)が必要です。

更に、気候変動と人口変動の変化のスピードと影響力を比較した場合、日本の少子高齢化のスピードから容易に想像できるように、人口変動のスピードはすさまじいものがあり、より素早い対応を求められるのが人口変動への対応、すなわちダイバーシティ社会の形成なのです。

人口および人口ピラミッドの推移

※1ダイバーシティhttp://diversityjapan.jp/our-goal/

ダイバーシティ(人の多様性への配慮)の欠如が引き起こす危機

人口変動への対応が遅れ、ダイバーシティが欠如していると生命に関わる重大な危機を引き起こしてしまいます。

東日本大震災では、「高齢者」「障がい者」が逃げ遅れ、震災による死亡率が高くなりました。避難所や仮設住宅での避難生活の中では、災害関連死で命を落としてしまう被災者をゼロにすることが出来ませんでした。多様な被災者に十分な配慮ができていたら、防ぐ事ができた災害関連死もあったはずです。

危機は、災害時に限った話しではありません。人材不足に悩む業界では、誰もが働きやすい環境を整備することが急務となっています。高齢化が進む建設業は、人材を確保するため、若者と女性の採用拡大を急務として取り組んでいます。その他の業種や企業でも、人材不足を打開するための取り組みを進めています。

欧州では、1970年代から、福祉国家への転換と移民の受け入れを行うことで、女性の就業率の上昇や世帯当たり所得の上昇につなげ、結果として出生率が増加し、人口変動による影響を緩和することに、一定の成果を上げてきました。

ダイバーシティは、人口変動が引き起こす危機を乗り越える処方箋なのです。

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ダイバーシティ社会への転換

社会の重要な担い手としてのNPO・NGO、ソーシャル・ビジネスへの期待

ソーシャル・ビジネスとは、「コミュニティ」の課題を、「事業的な方法」で、「継続的に改善する」ビジネスのことです。

「地域」より「共通の課題を持つ集団」としてのコミュニティに着目し、より具体的に課題を絞り込むことが成功のカギです。「慈善的」「運動的」な手法ではなく、同じ品質のものを同じ価格で、繰り返し提供することで、継続的な改善が行われることが重要です。

これまでの社会は、「政府や行政」が担う領域と「企業」が担う領域で、社会の大部分をカバーすることが出来ていましたが、社会の変化に伴い「政府や行政」「企業」がカバーできる領域が縮小しています。非政府・非営利組織(NPO・NGO)も、課題解決のための「社会の重要な担い手」として、ソーシャル・ビジネスのプレイヤーとして期待が高まっています。

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NGO・NPOの社会的役割

ソーシャル・ビジネスという手法でダイバーシティを実現 〜新しいスタンダードを作る〜

人の多様性に配慮のあるダイバーシティ社会を、ソーシャル・ビジネスで実現することは、社会的少数者に「社会に適合する生き方」を強いるのではなく、これまでの社会そのものを変えていき、「新しいスタンダード」を作っていくということです。

自分とちがう背景や個性を持つ人を受け入れず、相手も自分も変化しない状態は「排斥」。互いのちがいを受け入れることはないが、相手に変化を求める状態は「同化」。互いのちがいは認め合うものの、互いの変化は求めず交わることがない状態は「すみわけ」。

ソーシャル・ビジネスで構築する「新しいスタンダード」は、「排斥」「同化」「すみわけ」のどれとも異なる「共生」のポジション、すなわち、互いのちがいを受け入れ、互いに変化しながら共に支え合っていく状態なのです。

世の中の「新しいスタンダード」をつくる担い手こそが、ソーシャル・ビジネスの担い手なのです。

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「新しいスタンダード」をつくる