ツルの目とカメの目
2024年の能登半島地震から3回目の夏がやってきました。当研究所では引き続き、輪島市社会福祉協議会の見守り・相談支援事業にアドバイザーとして関わっており、2024年に実施した「被災高齢者等把握事業」で得た市内全世帯のすまいや生活の情報を活用しながら、現在の、そしてこれからの被災者支援をサポートしています。
総務省は5月、2025年の国勢調査の速報値を発表しました。輪島市の人口減少率は26.6%減で、全国で3番目に減少率が高い基礎自治体となりました(ちなみに1位は34.0%減の珠洲市です)。輪島市では7月10日を締め切り期限として、災害公営住宅の申し込みを受け付けました。市内に約1,000戸を新たに建設する予定ですが、建築資材の高騰や人手不足で自力再建の目処が立たない世帯や、地元で仕事が見つからず市外への転出を検討する世帯もあり、期限までに判断に迷われる世帯もあります。
そうした世帯を1件ずつ訪問してご様子を伺い、災害公営住宅の申し込みだけでなく、自宅の修繕やローンに関する情報や相談窓口を案内し、継続的な対応を行っているのが「見守り・相談員」です。輪島市では、応急仮設住宅はJOCA(青年海外協力会)が、在宅やみなし仮設にお住まいの方は輪島市社会福祉協議会が担当しています。当研究所ではこうした訪問活動や「り災証明書」のデータなどを分析して、すまい再建の見通しが立っていない世帯を抽出し、訪問の優先順位や情報提供の工夫を提案しています。
被災者支援などの課題解決では、全体像を把握して現状を分析し、今後の見通しを立てていく視点と、個別に支援を提供して解決していく視点の両方が必要です。前者を「トリの目」、後者を「ムシの目」ということもあります。両方の視点がかみ合ってこそ、見通しを持った課題解決ができるのです。
人口減少や経済の収縮は、災害の復興に長い時間がかかるという新しい課題ももたらします。いまの意向が5年先、10年先に変わることもあります。東日本大震災でも、当初は元の場所での自力再建を希望されていた世帯が、盛り土や整地に時間を要したことで経済や家族の状況が変化してあきらめたという事例が少なからずありました。一方で、直後はお子さんを連れて遠隔避難された方が、10年経って子どもも独立したので地元に戻るという事例もあります。親が高齢になったので心配で戻る、という話も聞かれます。
日本では各地で大規模災害とその後の復興の経験がたくさんあります。いま現在の「トリの目」「ムシの目」に加え、そこに長い時間をかけて被災地の全体像や被災世帯の様子を見守る視点を持つことも大切です。長生きする生き物で例えれば「ツルの目」と「カメの目」とでも申しましょうか。いちど地元を離れた人も、状況が変われば戻ってこられるようなまちづくりを進めていく。短期的な視点に拘泥せず、長い目で地域や人生をとらえることの大切さを、地震から3回目の夏を迎える輪島におじゃまして感じました。あ、カメはムシではないですが、そこはご容赦ください!
ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎