2018年度 第3回 「ダイバーシティ社会の形成とソーシャル・ビジネス〜高齢化社会〜」
社会福祉法人明照会 理事長/社会福祉法人あいく会
理事長 河原至誓

1983年6月生まれ。15歳で得度浄土真宗の僧侶となる。27歳で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人明照会の理事長に就任。その後、外国人材の活用や人材育成に力を入れ、現在、全国老人福祉施設協議会介護人材対策委員会幹事。「介護福祉士を子供のなりたい職業ランキングTOP10に入れる」を目標に、「介護男子スタディーズプロジェクト(※1)」や映画「つむぐもの(※2)」への協力など多岐にわたり活動中。あいく会では、「あそかの木保育園」を運営。高齢者も障害者も子ども達も、みんなが一緒に暮らせる「あそか村」をつくるという夢に向かって、取組を進めている。
社会福祉法人明照会 http://www.asokaen.or.jp
※1「介護男子スタディーズプロジェクト」http://www.kaigodanshi.jp
※2「つむぐもの」http://www.tsumugumono.com

ロボットではできない仕事、人と人が支えあうのが福祉・介護の仕事


福祉・介護の仕事は、「しんどそう」「お給料が安そう」というイメージを持っている人が多いようです。実際には、ちゃんと収入も得られますし、あそか苑で働いている介護スタッフは、本当にイキイキと働いています。
早ければこの10年の間に、AIの発達によって多くの職業がなくなると言われています。一方、福祉関係の仕事は残るとも言われています。つまり、機械が取って代わることが出来ない仕事、人と人とが関わり支え合う仕事、それが福祉・介護の仕事です。

福祉の力でコミュニティをデザインする


介護事業所の理事長となってから、地域を良くするため、グループホームをはじめとする施設を設置してきました。しかし、必死で多くの施設を作りましたが、一向に地域は良くならず、むしろ施設を作るほど、地域コミュニティを壊しているのではないかという気がしていました。

地方には介護施設の整備が進んでいない地域がたくさんありますが、その中で地域住民が声を掛け合って生活しています。



一方都市部では、街の機能が充実し、介護施設も数多くあるものの、施設にいる高齢者、その家族、若者などがそれぞれ独立して暮らしています。

自分がどちらがいいかを考えたとき、田舎のように、お互いにできることを持ち寄って暮らしていく方が魅力だと思いました。福祉に携わる者としては、そういう地域の福祉の方が良いのではないかと思ったのです。

これからの福祉は、「コミュニティ・デザイン」という考え方なのではないかと思っています。「そこに住んでいて気持ちがいい」というコミュニティをデザインすることが大事だと思います。福祉の仕事は、社会の問題を解決すること。そうすると、社会をデザインするのが僕らの仕事です。私たちが、施設を起点に介護や保育などの得意とすることを駆使し、どのように社会問題を解決するか。それがコミュニティ・デザインだと思っています。

誰もが活躍できる村、「あそか村」


私の夢は、「村」をつくることです。女性、男性、障がい者、高齢者、外国人、それぞれ違うもののように捉えられていますが、みな人です。「障がい者だから守らなければいけない」とか、「高齢者にはいかなる時も席を譲らなければならない」といったことには少し違和感があります。

誰しもできること、できないことがあり、障がい者や高齢者を「助けてあげる側」に位置づけてしまうのは間違いだと思うのです。元気な高齢者はしんどい若者を助けたらいいし、障がい者だってできることをやって社会に貢献すればいい。その時できることを互いに持ち寄って支えあう、そんな「村」づくり、社会づくりができたらよいと思っています。


例えば、高齢者が掃除などできることで働き、そこには子どもたちがいて、泣く子を高齢者があやしているような特別養護老人ホーム。保育所にいつも高齢者や障がい者がいて、子どもたちとダンスの練習をしている。そういうことが当たり前の地域を作っていけたらいいと思っています。

仕事と生活の区別をしない「ワークアズライフ」という考え方は、福祉の在り方と似ていると思います。

「やりたいこと」と「求められていること」を結び付ける


これから10年後に、どんな仕事があるのかわかりませんが、福祉は残っているだろうし、可能性もビジネスチャンスもあると思います。私たちは、自分たちなりのキャリアアップの道筋を形作っていく世代なのだと思います。今まであった仕事が10年後に当たり前にあるものではないという時代です。

「やりたいこと」と「できること」と「求められていること」があったとき、「できること」と「求められていること」が重なるところが、今まで「仕事」と言われてきた部分です。そこに、「やりたいこと」を重ねていき、全ての要素が重なるところが「やっててめっちゃ楽しいこと」だと思います。

これからは、「やりたいこと」と「求められること」の重なりを、仕事として大事にしていくべきなのだと思います。「やりたいこと」と「できること」の重なりは、それが求められていなければただのお節介ということになってしまいます。

自分の「やりたいこと」を大事にして、「求められていること」とどこが重なるのかをまず考えてみてください。求められているということは、誰かがそこで困っているということです。「困っていること」と「やりたいこと」とが重なる部分に自分が「できること」を作っていけば、自分なりの「めっちゃやりがいのある」ことができていく。


「できること」にフォーカスしすぎて、「やりたいこと」をおざなりにすると、これから50年も働き続けていくことは非常に難しいと思います。

既存の仕事の中で自分の未来を選択せず、自分の好きなことを活かして働き方を考えてほしいと思います。また、その仕事が自分のアイデンティティになるかどうかを考えてほしいと思います。仕事がアイデンティティに組み込まれていかなければ、求められることはありません。そういうことが仕事になる時代だと思っています。

 




「やりたいことを仕事に」と伝えましたが、具体的な方法として、一度自分の得意なことを5つほど羅列してください。一方で、様々な分野で社会的に困っている人に、自分の得意なことを使って解決できないかを考えてみてください。例えば、旅行が好きだったら、高齢者を旅行に連れて行くというビジネス、といった具合です。それが考えられたら、ソーシャルアントレプレナー、社会起業家になれると思います。