2018年度 第5回
「ダイバーシティ社会のケーススタディ(2)〜男女共同参画〜」
スリール株式会社 プログラムコーディネーター 浜田歩

自分らしいワーク&ライフの実現


ソーシャル・ビジネスの講座なのに株式会社ときいて困惑する人もいるかもしれませんが、私は大学在学中に結婚・妊娠・出産を経験し、ワークとライフを両立してきた当事者としてお伝えできることがあると考えています。

前職はアメリカで日系百貨店で接客業務に従事していました。その後、2014年12月からスリールでプログラムコーディネーターとして働き始め、大学生向けインターンの運営、大学でのプログラム導入に関わっています。

なぜスリールに?


学生へのヒアリングでは、概ね半数程度の人が、「結婚して出産したら、仕事を辞めないといけない」と思っています。
私は前職の最終面接を控えていたとき妊娠が発覚し、「結婚と仕事、どちらかを選ばないといけないのでは」と悩んでいました。結果的に、夫を始め多くの方々の協力を得て、結婚と出産、仕事を両立することができました。
しかし世の中を見渡すと、そのような人はあまりいないのが実情です。私自身も、「母乳神話」や「3歳神話」に苦しみました。厚生労働省の研究ではこれらの「神話」は否定されていて、食事でのコミュニケーションなど、どのように一緒に過ごしたかが大事と言われているのに、です。また、転職の際の面接でも、「そこまでして女性がキャリアを築く必要があるのか」、「子育てに専念すべきでは」と言われました。私自身は、家事育児は「手伝う」ではなく「シェアする」という考えが当たり前ではないかと思っていました。

今、どちらかというと「子育ては楽しそう」より「大変そう」というイメージを持っている人も多いと思いますが、子育ては「幸せなこと」です。「孤育て」ではなく、社会全体で子育てするにはどうしたらいいのかを、4年前に帰国してから考えていました。
その中で、「自分らしいワーク&ライフの実現」をミッションに掲げるスリールと出会いました。次世代を担う若者が、どんな選択をしても輝ける社会に、子育ては楽しいということを伝える人になりたいと思い、入社しました。

スリールについて~2つの社会課題の解決を目指して~


スリール株式会社は、「多様な状況下で、自立して働ける人や環境を作る企業」として2010年11月に設立された人材育成会社で、二つの社会課題の解決に取り組んでいます。

一つは「両立不安」です。
大学生や若手社員など、女性は仕事と子育ての両立に直面する前から不安を抱え、仕事にブレーキをかけてしまっています。一方で、仕事も子育ても、両立についても学ぶ機会がありません。そして、子育てを機に約半数が仕事を辞めています。「スーパーウーマンでないと両立はできない」と多くの人が思っています。男性は逆に、「働き続けて家庭を支える」ことを選び、多様な選択肢を選べない状況にあります。

実は戦前の日本は共働きが当たり前でした。農家や自分で商売をすることがほとんどだったためです。10人くらいの大家族が当たり前で、祖父母、兄弟、近所の子供みんなで子育てをするため、子供が産まれても「バッチリ」だったわけです。当たり前に子育てサポートがあり、子育てを学べる環境でした。


戦後、核家族化が進み、都心部に出稼ぎに来て家庭を築くということが一般的になってきましたが、それに対する勤め先からの保証がかなり有りました。男性の収入だけで3人育てられる待遇や雇用、住宅の保証、税制優遇といった具合です。家族からの子育てサポートがなくても、職場や社会からのサポートがあったため安心でした。近くに身寄りがいなくても、なんとか自分たちだけでの子育てが可能な社会だったのです。

しかし、バブル崩壊によって、そうした保証が減っていきました。そのような状況で、女性も働かないと家庭がまわらず、共働きが増えてきています。しかし、まわりにサポートしてくれる人が誰もいない。そのため、出産を機に仕事をやめてしまう。母親自身も、自分の子が自分が関わる初めての乳幼児で、子供と触れ合ったことのない女性も増えました。
結果として、両立不安になっていく。この状況で不安になるのは当たり前ですよね。
これを解決するために活動を始めたのがスリールです。

 


次に二つ目の課題です。
現在の大学生の傾向として、「生き方の選択肢が少ない(親と先生しか将来像がない)」、「自分の意見を認められた経験が少ない(意見を言うことを前向きに捉えられない)」、「すべてに答えがあると思い、考える力が少ない(ちゃんとした答えを言わないと認められないと思い発言できない)」ということがあります。これが私たちが取り組んでいる二つ目の課題です。

スリールは仕事と子育ての両立プログラムや学生キャリア教育を通じて、大学生に対する「ワーク&ライフインターン」を行っています。体験と座学から成る、課題解決プログラムです。
インターンでは、学生2名がペアになって、実際に子育てをしている家庭に行き、「両立体験」をします。例えば、夕方に学童に迎えに行き、一緒に帰って宿題をしたり、ごはんを食べたり、時には寝かしつけもします。


どうすれば信頼関係を築けるかや、時間管理などを試行錯誤しながら取り組んでいきます。子どもと接するだけでなく、働く親とのコミュニケ―ションそのものも学生の学びにつながっています。インターンの最後には、10~20年後を見据えたソーシャル・ビジネスについてのプレゼンがありますが、チームで作り上げていく過程も大切な学びになっています。

こうしたインターンを経験した87%の学生ががキャリアに前向きになっています。漠然としたネガティブイメージを持っていた大学生が、キャリアや両立に前向きになっています。
「子育てなんてしなくてもいいかなと思っていたが、社会人3年目に妊娠・出産した」という女性もいます。

学生のみなさんへのメッセージ


最後に、二つのメッセージをお伝えしたいと思います。
一つは、”Planned happenstance”、すなわち「計画された偶発性」です。スリールの代表はこれを、「軸を持って流される」と表現をしている。「なりたい人」や「なりたい姿」を描いたら、そのとおりに人生を歩んでいかないといけないのか、というとそんなことはありません。自分の大切なものを持ちながら、なんとなく流されていってもいいのではないか。その先に自分がやりたいことがあったりするのです。どんな人生を選択してもいいです、自分が納得できて、前向きな人生を、笑顔で生きてい行きましょう。

もう一つは、”Where there is a will, there is a way”という言葉です。私はこれを、「意志あるところに道がある。道がなければ切り拓いていこう」と解釈しています。自分自身、そんな人生を歩んでいると思います。道を切り開いていった先に、自分が納得する人生や、笑顔でいられる人生があると感じています。これから先の人生の中で、自分の納得する人生を歩んでいってほしいと思います。