壁は壊れたはずなのに
先日、関経連の主催で開催された第4回D&Iフォーラムにて、パネルディスカッションのファシリテーターを務めました。第1回から続けて担当させていただいているのですが、企業の実践事例や会員企業アンケート結果から、D&Iの取り組みが進展している様子が窺えました。女性活躍や男性育休の促進については、従業員規模が一定以上の企業ではおおむね制度の整備や取り組みの着手はできているように思います。これまであったさまざまな壁は取り払われつつある、という状況でしょうか。
一方、制度はあっても活用が進んでいない、組織全体としての機運の醸成はこれから、といった企業も少なくないようでした。男性育休も女性と比べると期間が短い、従業員に占める女性の割合は増えているのに管理職に占める割合が伸びないといった課題があるようです。壁は壊れたはずなのに、人々の意識が以前のままの場所に留まって動かないままのようです。
私は、職場のダイバーシティ推進は、地方の中小企業にこそ先進事例があると以前から主張してきました。地方の中小企業での人材不足は深刻で、多様な人材を採用し、定着のための工夫をしないと職場の維持が困難です。年齢や性別、障害のあるなしや国籍に関係なく多様な人を採用し、ライフステージに合わせて働き方を変えられるよう多様に休暇制度や就業規則を整えている事例は、地方の中小企業にたくさんみられます。
こうした地方の中小企業で社長さんたちは異口同音に「ダイバーシティという言葉は知らない」「とにかく人を大切にしてきただけだ」とおっしゃいます。KPIを設定して体系的・計画的にダイバーシティを推進することも大切ですが、いまいる人と向き合って、その職場に最適な働き方を考えて行動に移していくことも大切です。大企業のダイバーシティ担当の方にはぜひ、地方の中小企業の事例にも目を向けてほしいです。
また地方の中小企業で社長さんたちには、様々なポジションにいる社員が部署を越え、時には取引先や異業種の社員とも交流しながら、組織全体にダイバーシティを浸透させていく大企業のプロセスから、今後の取り組みへのヒントを得ることをお薦めします。「うちは中小企業だから」「うちは規模が大きいから」といった壁も取り払って、人の多様性が活かせる職場のあり方をみんなで探っていけるような社会でありたいものです。
2025年もたいへんお世話になりました。2026年が私たちの社会にある「壁」をひとつでも多く取り除ける1年になることを祈っています。どうぞよいお年をお迎えくださいませ。
ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎
*過去の関経連D&Iフォーラムの様子は下記からご覧いただけます。