「生活の漢字」教室は文化庁地域日本語教育支援事業に採択された2006年に誕生しました。日本語教育に長年にわたって貢献され、教室の立ち上げメンバーであった永井慧子さんが多文化共生センター大阪の理事であったご縁からセンターの事業として実施しており、現在はダイバーシティ研究所に継承されています。
ボランティア主体の日本語学習支援は数々行われていますが、主に会話の指導が主体で日本語の読み書きを学習している活動は多くありません。しかし日本語は他の言語とは違い、ひらがな、カタカナ、漢字という3つの文字を使うという特徴があります。特に漢字は数が多く、一つの漢字に複数の読み方があることから、独学が難しく挫折する人も多くいます。そこで私たちは、生活者としての外国人が日本での生活を楽にするために楽しく漢字を学べる教室を始めました。それが「生活の漢字」教室です。
「生活の漢字」とは、「毎日の生活の中で目にする漢字語(注:漢字語とは漢字を含む語彙)」、「日常生活において、その意味が分からないと生活に支障をきたす漢字語」、「読むことができて意味が分かったら、生活するうえで便利になる漢字語」のことです。教室では「今日勉強したこと」が「今日、生活のなかで使える漢字教育を行うこと」を目標に、生活の漢字が使われている場面や物の写真を使って学びます。例えば、授業では大阪駅の写真を使って「大阪駅」という漢字語を学びます。すると、それまで「OSAKA-EKI」を音では知っていたけれど、文字は「OSAKA STATION」しか認識していなかった学習者は、帰り道に「大阪駅」という漢字が目に飛び込んで来るという経験をします。単なる記号だった漢字を初めて意味を持つ文字として認識したうれしい瞬間です。
私たちの実践は「新にほんご<生活の漢字>漢字みーつけた」という一冊にまとめ、アルクから2011年に出版しました。また、毎年文化庁のサイト「NEWS」に教材を提供したり、各所で日本語ボランティアを対象とした研修を行ったりしています。昨年度はオンラインによる子育てのための漢字教室も開催しました。今年度はこれまでの事業をより発展させるとともに、出前漢字教室を企画しています。しかし、支援の継続が難しく協力先も見つからないため、生活の漢字事業は今年度が最後の年になるかもしれません。このコラムを読んで、私たちの事業に興味を持たれた方がいらっしゃったら是非ご連絡頂きたいと思います。