無秩序という新秩序
2022年の当研究所のウエブサイトに、「VUCA 時代に求められる自治体施策」と題した短い論文を掲出しました(*1)。ロシアによるウクライナ侵攻をふまえ、ますます混沌とする世の中にどう向き合っていくのか。不寛容な人を放置しないことが重要だと書いたのですが、その後の4年間で世の中はますます不寛容が跋扈してしまい、先行きはますます見通せない状況となっています。
冷戦終結後、私たちは「世界新秩序」という言葉をよく耳にしました。しかし実態は、東西の和解によって平和な秩序が形成されるという方には向かず、対立軸を代えて新たな無秩序を創出しただけでした。確かに「世界新秩序」という言葉は、1990年8月のイラクによるクウェート侵攻を受け、ブッシュ大統領(父)が湾岸戦争前に連邦議会で行った『新世界秩序へ向けて(Toward a New World Order)』というスピーチを受けて、一般に広く知られるようになりました。当時のスピーチ(*2)には「America and the world must support the rule of law. And we will. (アメリカと世界は法の支配を支持しなければならない。そして我々はそうする。)」という一文が入っているだけ、トランプがもたらしている無秩序より多少ましかもしれません。
さて、日本における外国人受入れにおいても、昨年から「秩序ある共生社会」という言葉が使われるようになりました。この間、政府が発表した資料を読む限り、ここでいう「秩序」とは、社会規範やルールを守らない行為や人々を許容する社会を「無秩序」としたうえで、そうした行為のない社会を「秩序」と位置づけているように思われます。また、昨夏の参院選以降、従来の「共生」施策が「秩序」の実現を妨げているといったような論調があります。
「秩序」の逆は「無秩序」であり、「共生」は「秩序」の反対語ではありません。ほんとうに社会の安心や安全をめざすのであれば、新たな対立軸をつくりだして不安を煽るのではなく、法の支配の元、国籍や民族に関わらず公正な対応を行うことと、排除を生まないしくみを整えることが大切ではないでしょうか。
ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎