事務所は必要か?
コロナ禍で在宅ワークが増えた際、「職場に通う」とか「自分の机に向かって仕事をする」ということの意義が問い直されました。当研究所でも大阪事務所は2年前にバーチャル化し、電話の受付は代行会社に委託しました。東京事務所も12月より、これまでより面積を縮小して同ビル内に移転することとしました。(事務所移転の詳細は本文「お知らせ」をご参照ください)
日本では多くの人にとって、職場と住まいが分離したのは戦後のことではないでしょうか。東京や大阪では明治末期から、郊外に住まいを設けて都心に通う生活が徐々に広がりましたが、当時の鉄道は貨物や寺社仏閣への参拝客を運ぶことが主な目的でした。仕事のためにわざわざ職場に出かけるというのは高度経済成長期に定着したもので、それほど長い歴史があるものではありません。これまでのやり方にこだわらず、新しい働き方や暮らし方が広まれば、後世の歴史家から「コロナ禍は働くことの意味や住まうこと、人と会うことの意味を考えるきっかけになった」と評されるかもしれません。
一方で、人と人とが空間をともにすることで何か新しいことが生まれる、ということの重要性も、私たちはコロナ禍で改めて気づいたように思います。オンラインでのコミュニケーションも工夫次第で新たな化学反応は生まれると思いますが、どうしても目的や時間を限定した場づくりになりがちです。目的を絞らない余白のある時間は対面でのフィジカルな空間をともにした方が持ちやすく、イノベーションも生まれやすいのではないでしょうか。中大兄皇子と中臣鎌足がともに蹴鞠をしなければ、いまの日本の形は変わっていたでしょう。
コロナ禍の前は事務所に行くと、エレベータやトイレで他団体の人と出会って雑談をしたり、直接は関係のない掲示物を見て新たな取り組みに気づいたりしたものでした。少し狭くなった事務所ですが、ここから新しい「何か」を産み出したいと思っています。(といっても、田村は出張ばかりでほとんど事務所にはいないのですが。。。)
ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎