技術で越えたいほんとうの壁
先週、アドビ株式会社さんの主催で開催された「まちの広作室」というイベントに登壇しました。「まちの広作室」は同社のツールを活用し、地域の商店や事業者を対象に、チラシやポスターなどの広報物のデザイン業務をサポートするプロジェクトで、今回は早稲田・高田馬場エリアの商店関係者や学生、24名が参加しました*。
今回のイベントで紹介されたツール(Adobe Express)では、豊富なテンプレートからデザインを選ぶことができる上、無料版でも生成AIによる翻訳機能が使えます。日本語で作成したポスターがデザインはそのままにボタンひとつで各言語版に早替わりする様子に、参加者からは驚きの声があがっていました。
いまはたいていのスマートフォンに翻訳アプリが入っています。多言語化はやろうと思う気持ちがあれば、誰でもできる時代になりました。つまり多言語化は「技術」や「予算」の問題ではなく、翻訳しようと思うかどうかということ、そして、何を翻訳するかという発信する側の「こころ」の問題へとシフトしたといえます。
まちなかにあふれている多言語表示は「自転車をとめるな」「ゴミを出すな」といった命令、あるいは「防犯カメラ作動中」「警察官立寄所」といった、外国語を話す人を迷惑や犯罪予備軍扱いするようなものばかりが目につきます。SNSも相手を非難したり、人を搾取したりするような配信であふれています。私たちは手にした技術で何を伝え、どんな社会にしたいのでしょうか。
原子力も航空技術も、インターネットもAIも、開発した方々はそれらが平和な目的で使われることを期待したはずです。排斥や分断を煽るような使われ方を嘆くばかりでなく、相互理解や共生社会に向けて技術を使いこなしていく努力を重ねなくてはならないし、その可能性は未だあると感じた一日でした。
技術で越えたい壁は「ことばの壁」ではなく、「こころの壁」なのです。
ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎