一般財団法人ダイバーシティ研究所 メールマガジン
当研究所の活動や「ダイバーシティ」についての情報をお届けします

Vol.192 (2024年12月26日発行)

多文化共生分野の担い手不足

 今年もほぼ毎週、どこかの自治体にお招きいただき、市民向けに、あるいは自治体職員向けに、外国人との共生に関するこれまでの経緯やこれから求められる取り組みについてお話しし、また各地の様子を伺ってきました。そこで感じることは、日本語教育や多言語対応など、地域で多文化共生を進めていくうえでの「担い手」が不足していることの深刻さです。今回はやや長文になりますが、これからの日本にとってたいへん重要な課題である「多文化共生分野の担い手不足」について、その背景や今後求められることを整理してみます。

 政府は2018年6月に外国人を労働者として受入れる方針を閣議決定し、2019年には在留資格「特定技能」を新設しました。本年6月には技能実習生制度を廃止する改正入管法が成立し、2027年から3年以内に「特定技能」の水準の習得をめざす新たな在留資格「育成就労」が施行されることとなりました。さまざまな産業で人手不足が深刻化する中、外国人雇用への期待は高まっています。
 「特定技能」の在留資格で外国人を雇用する場合、企業や組合などの受入機関は日本語教育や生活支援を提供する必要があります。自組織で対応できない場合は入管庁に届け出た「登録支援機関」に委託することができますが、登録支援機関は都市部に集中しています。人材不足がより深刻な地方では、日本語教師や通訳の確保もまた難しく、事業者からは自治体に対して支援を求める声があがっています。
 外国人の労働者としての受入れ方針を決めた閣議決定の翌月、2018年7月に政府は「外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針について」を新たに閣議決定しました。また、同時に「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を開催して、同年末に政府全体で外国人との共生社会の実現をめざしていくための「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」をとりまとめました。さらに2022年6月には「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」を策定し、向こう5年間に取り組むべき方策を3つのビジョンと4つの重点事項に整理しています。
 総合的対応策やロードマップで示された国の施策は、自治体が申請して交付金や補助金を予算に充てることができます。例えば外国人向けに多言語で相談窓口を設置する場合に入管庁が1千万円を上限に整備費や運営費を交付する「外国人受入環境整備交付金」は、259の自治体が今年度の交付を受けており、交付金の総額は11億円近くにのぼります。日本語教育でも文化庁や文科省が交付や補助を通じて取り組みを促しており、本年4月から施行された「日本語教育機関認定法」によりは日本語教師を国家資格となりました。
 これまでは予算が付かず、ボランティア頼みだった多文化共生の分野に、ようやく政府の予算がつくようになりました。しかし、問題は担い手の不足です。日本語教師を育成するプログラムは以前からありましたが、職業にならないためにプロの人材が増えませんでした。外国人からの相談を受ける人材もボランティアか、自治体などに採用枠があっても非常勤や有期雇用で待遇が悪く、職業として継続できるような状況ではありませんでした。私はかつて東京と大阪の2つの国立の外国語大学でボランティア論を担当し、在学中に熱心にボランティア活動に取り組む学生たちの姿を見てきました。しかし彼らが希望する学校の通訳や日本語教師としての就職先はほぼなく、多くの学生が別の道を歩んでいきました。
 総合的対応策やロードマップの策定を受け、自治体が政府の予算を得て多文化共生を担う人材を雇用しはじめました。ところがいまの日本には、日本語教育や通訳・翻訳を担う人材が圧倒的に不足しています。予算が10倍になったからと言って、いきなり人材が10倍に増えることはありません。長年にわたって多文化共生分野の仕事が軽んじられ、職業として成立しない状況であったことが、今日の厳しい状況を生んでしまったのです。
 先日、日本政府観光局が発表した今年の訪日外客数は11月までの累計で3千3百万人を超え、コロナ禍前の2019年を上回り過去最多となりました。2024年6月末現在の在留外国人数も約359万人となり、過去最高となっています。外国人観光客が地域経済に及ぼす影響は無視できない規模となっており、また人手不足が深刻化するさまざまな産業で外国人の存在感が高まっています。
 国や自治体は、これからの多文化共生社会に必要な人材の数や内容を吟味し、育成し、待遇を改善して優秀な人材が定着するような環境を整える必要があります。新たな在留資格「育成就労」が始まる2027年以降は、単身・短期で出稼ぎを目的に来日する外国人は減少し、家族とともに地域で暮らす外国人の増加が予想されます。地域に必要な多文化共生分野の担い手をどう育て、どのように活躍できる環境を整備するのか、次の10年を見据えた戦略づくりが急がれます。

 2025年が多文化共生の担い手不足解消に向けた転換点となる1年になればと思いますし、そのために当研究所としてもできる限りの取り組みを進めていきたいと思っております。新年もお力添えを頂ければ幸いです。


ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎


【田村登壇のイベント1 2025年1月11日 岡崎市】

災害ケースマネジメントシンポジウム
「能登半島地震から一年~現場で見えた課題と私たちができること~」
令和6年1月1日に発生した能登半島地震から一年が経過しようとしています。この災害では、被災者の生活再建を支援するため、災害ケースマネジメントが実施されています。
本市では、災害ケースマネジメントの手法を取り入れた被災者支援体制の構築を進めていることから、この経験と成果を共有し、今後の災害に備えるため、「災害ケースマネジメントシンポジウム」を開催します。

日時:2025年1月11日(土曜日) 14時~17時30分
場所:岡崎市甲山会館(六供町)
費用:無料
詳細:https://www.city.okazaki.lg.jp/houdou/p042189.html


【田村登壇のイベント2 2025年1月24日 富山市 】

「共創の未来とやま」シンポジウム
すべての人が個人として尊重される地域社会の実現へ 
~共創ネットワークの可能性~
「共創の未来とやま」プロジェクトは、多様な背景を持つすべての人々が個人として尊重され、誰もが自分の個性や能力を最大限に発揮し、共に輝ける地域社会を創り上げていくことを目的として、2024年8月に始動しました。
今回のシンポジウムは、これまでの「市民社会」「企業」「教育」のテーマ別に実施した3回のセミナーの総括として開催いたします。各セミナーで得られた学びや、課題に対する改善策、行動計画を一緒に考えていきましょう。

日時:2025年1月24日(金)14:30~17:00
場所:インテックビル(タワー111)3階 スカイホール (富山市牛島新町5-5)
費用:無料
詳細:
https://www.jica.go.jp/domestic/hokuriku/information/event/1557615_23953.html


【田村登壇のイベント3 2025年1月25日 オンライン】

かめのり財団 2025年度事業助成オンライン説明会
公開セミナー 「能登半島地震から⾒えた多⽂化共⽣の課題」
かめのり財団が主催する来年度の事業助成説明とオンライン公開セミナーを当研究所が事務局を担当して開催します。

日時:2025年1⽉25⽇(⼟)13:00〜15:00 事業助成説明会、15:30〜18:00 公開セミナ
場所:オンライン開催(Zoom会議)


【田村登壇のイベント4 2025年2月6日 大阪市 】

災害と人権 誰一人とりのこさない
「事業計画の作り方」講座
この学習会は、災害と人権、事業計画の基礎を学ぶ、企画書づくりにチャレンジ、とした内容で、講義と演習方式になります。人権NPO助成金への応募を検討されているかたはもちろんのこと、助成金への応募を問わず、どなたでもご受講いただけます。

日時:2025年2月6日(木) 13:30~16:30
場所:HRCビル 5階ホール(大阪市港区波除4-1-37)
資料代:1,100円
詳細:
https://www.jinken-osaka.jp/2024/12/post_375.html


【お知らせ】

1. かめのり財団2025年度多文化共生ネットワーク事業助成
公益財団法人かめのり財団が2025年度に事業実施を計画している個人・団体への「事業助成」を募集しています。

2. 2025年度ジョンソン・エンド・ジョンソン コミュニティ・ヘルスケア・プログラム
地域社会のヘルスケアの向上につながるFLHWによる取り組みを応援します。公衆衛生に関する社会全体やコミュニティを対象とした活動、地域住民のヘルスケア支援の実現に向けた活動およびFLHWに対する教育やサポート、さらには活動の展開を助けるための調査研究活動も対象とします。

3. 当研究所年末年始休業のお知らせ
当研究所は2024年12月28日(土)から2025年1月5日(日)まで年末年始休業とさせていただきます。
※当メルマガのご登録・ご解約はこちらのページからお願い致します。
 
https://diversityjapan.jp/mail-magazine/
※当メルマガへのご意見・お問い合わせは、下記連絡先までお寄せください。

【ダイバーシティ研究所 メールマガジン】
発行日:不定期
発 行:一般財団法人ダイバーシティ研究所(DECO)


東京事務所
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-3-18 アバコビル5F
Tel: 03-6233-9540 Fax: 03-6233-9560
大阪事務所
〒532-0011 大阪市淀川区西中島6丁目3番24号 北白石ビル西館4F 404
TEL: 06-6105-3245