当事者性と専門性で「自治」を取り戻す装置としてのNPO
8月末、仙台で「加藤哲夫さんの宿題を考える会」に参加しました。「せんだい・みやぎNPOセンター」の代表として、また環境保護やHIVと人権の世界でも1980年代から市民運動のリーダーとして活躍されてきた加藤哲夫さんは、2011年8月に他界されました。13回忌の節目となる今夏、ゆかりのあるメンバーで会を企画し、私もそのメンバーとして全体構成やセッションのモデレーターを担当しました。
加藤哲夫さんと私が直接一緒にお仕事をさせて頂いたのは2000年頃からで、多文化共生の担い手を育成する「多文化セミナリオ」という研修や、日本財団が立ち上げた「CANPAN」のアドバイザー会議などでご一緒しました。私には仕事でご一緒させて頂いたことよりも、その前後で重ねた加藤哲夫さんとのコミュニケーションの記憶の方が強く残っています。私よりももっと身近で働いていた人たちにとって加藤哲夫さんの仕事や社会に対する「まなざし」は時に厳しすぎ、ちょっと辛いなと感じた方も少なくなかったようですが、加藤哲夫さんが大切だとおっしゃっていた言葉の数々は、私のいまの価値観や思想を形成する上でとても貴重なものとして私の中に生き続けています。
阪神・淡路大震災をきっかけに市民活動が法人格を得て契約の主体となって行政や企業とともに公共の担い手となることへの関心が高まり、1998年にNPO法が成立、施行しました。その後NPOと行政との「協働」が叫ばれ、委託契約を結んで公共のNPOは増えました。加藤哲夫さんはNPOが行政から委託を受けて仕事をすることは「自治の取り戻し」であるとよくおっしゃっていました。これまでは行政に公共の仕事を委託していたが、これからは当事者性と専門性の高い市民が自ら地域の課題を治めていくのだ、民間企業への委託とNPOへの委託はそもそも意味が異なる、コストを下げるための委託ではなく、これまで行政に委ねてきた自治を取り戻すプロセスなのだと。
ダイバーシティ社会を推進する上で、この「自治の取り戻し」という発想はとても重要です。行政のしくみは市民が納めた税をもとに同じ施策を公平に分配するには優れていますが、ひとりひとりのニーズに合った施策を提供するには不向きです。専門性に加え、当事者性の高いNPOが質の高い取り組みを行ってこそ、人の多様性に配慮のある社会を形成することができます。NPO法の成立・施行から25年が経ちましたが、現状はどうでしょうか。
私は自治を取り戻す装置としてのNPOの機能はこのところ後退しているように感じます。景気の後退で民間の企業も行政からの委託に次々と参入し、当事者性はおろか、専門性も低いところが価格だけで委託契約を落札していく事例が各地で起きています。阪神・淡路大震災で発見した市民活動の重要性と、自治を取り戻す装置としてのNPOの機能を改めて見つめ直し、ちがいを認め合い誰もが活躍できる社会の再構築に臨まなければならない。8月末の仙台での熱い議論から、そんな思いを新たにしました。
一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事
田村太郎